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慢性痛のサイエンス

[2023.05.07]

先日、本著「慢性痛のサイエンス」第2版が出版された(半場道子著  2023年3月 医学書院)。

慢性痛は、発症から3ヶ月以上続く痛みと考えられ、いまや、慢性痛の患者数は各国ともに人口の20%を超えるという。本著では、慢性痛は単に急性痛が長引いたものではないとの視点で、脳科学、神経科学の視点から迫った内容であるが、多くの文献も多く紹介されている。
 なかでも、慢性痛の治療法としての「筋運動」についての知識は、昨今、各学会、論文等でも取り上げてきているが、本著でも大変よくまとまっていたので、ここで簡単に紹介したい。
骨格筋活動には「百薬の長」と言うべき生理的意義がある。骨格筋が収縮すると多種類のサイトカインやペプチドを産生、分泌させることが明らかとなってきた。そして、これらの産生物質(マイオカインと呼ぶ)は血流やリンパ流に乗って、多臓器に運ばれて作用することから、筋肉は、ただ関節を収縮したり、姿勢を維持するだけのものではなく、内分泌器官であることが明らかになってきた。
 軽い筋運動では、抗炎症作用を持つマイオカインが産生され、全身の炎症が抑制し、慢性痛の改善が期待できるほか、生活習慣病や老化を抑制する効果も、近年、明らかになりつつある。しかし強い筋運動を続けるとその産生されるマイオカインの性質は異なり、慢性炎症を促進するものになり、結果、関節軟骨の摩耗を招き、変形性関節症や疲労骨折に至ってしまう。本著では、アスリート並みの強い筋運動は、誤った健康神話であると言い切る。
 一方、体を動かさないライフスタイルSedentary Lifestyleこそが近年、慢性炎症の元凶であることがわかってきた。すなわち筋運動が少ない生活は慢性炎症を引き起こし、生活習慣病のみならず、認知症や悪性腫瘍をも引き起こすことが報告されつつある。
 以上から、筋運動が健康維持には欠かせないことが明らかなのであるが、その筋運動とは、ジムなどで行うような特別なトレーニングではなく、畑仕事、庭仕事、家事労働、掃除、通勤時の歩行、荷物の運搬など、額に汗が薄ら浮かぶ程度の日常的な筋運動が効果的と説明する。職業柄、座る時間が長くなることもあるだろうが、その合間、合間に少しでも動く運動ことが(面倒くさがらずにしゃがみ込んでスクワット、エレベーターを使わないで階段を使う)、コツのようだ。

 秦の始皇帝をはじめ、遥かに遠い異国の地まで探し求めた不老長寿の秘薬は、実はわれわれの身体の体内に存在していたのだ。とは、なんとも著者のユーモア溢れる表現である。確かに、毎週日曜テレビで放送されるポツンと一軒家などで、お元気なお年寄りの方が紹介されているが、その番組で登場される方々は一日中、動き回っているような方ばかり。やはり筋運動が健康寿命の秘密であることを教えてくれているような気がする。

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